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KEEPING SCORE マーラー編のブルーレイ

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KEEPING SCORE マーラー編 のブルーレイ

ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の KEEPING SCORE(キーピング・スコア) マーラー編のブルーレイが来ました(同内容でDVDも発売されています)。

本当は4月中に発売予定だったのが遅延。毎回何かをリリースする度に予定を大幅に遅れるのならば、最初から準備可能な日に発売日を設定すれば良いのにと思うけれど、そうするとそこからまたさらに遅れるんだろうなと思わせるところが、アメリカ。

*ブルーレイと同じ内容をウェブで無料試聴できます →こちら

ドキュメンタリー

ドキュメンタリーは、Origins and Legacy というタイトルで1時間53分。アメリカでのテレビ放映は2回に分かれているのですが、ディスクは切れ目なしの1話に仕上がっています。

前半の「オリジン」は、マーラーの生涯にわたる作曲の素材となった音や音楽にフォーカスして、1889年に交響曲第1番を初演するまでの道のりを曲を紹介しつつ探求するもの。

後半の「レガシー」は、それらの作曲の素材がその後の作品でどう発展していったかを、マーラーのキャリア展開やプライベート面とからめつつ追う内容。

音楽で時間をかけている部分は

  • さすらう若人の歌と交響曲第1番
  • 交響曲第3番スケルツォ(映画製作のような手法で描かれているのを見せる)
  • リュッケルト歌曲集(作品の転機になったこと)
  • 交響曲第7番スケルツォ(グロテスクな表現が顕著である例)
  • 交響曲第9番ロンド・ブルレスケ(アイロニーの表現)
  • 交響曲第9番(ターンの扱い、今まで使ってきた素材が登場すること)

ロケーションの見どころ

  • イグラウ(最大の見もの。少年時代のマーラーの音環境について)
  • マーラーが作曲に集中した小屋(3つ登場)
  • 交響曲第5番などを書いた湖畔の別荘

ティルソン・トーマスが冒頭でマーラーの音楽は、あらゆる可能性があるルートを試しながらある結論に達しようとする自己発見の旅である点が人々を惹き込むということを言っていますが、ドキュメンタリーはまさにこの視点に立っています。

MTTのマーラーを聴くということ

私はティルソン・トーマスのマーラーで聴き手が着眼すべきは、MTTの“perspective”だと思います。彼はサンフランシスコ交響楽団とのマーラー・プロジェクトにおいて、一貫した姿勢である視点に立ってマーラーを聴くということを提供している。MTTが探求したことを追体験すること、彼が提示した視点に立ってマーラーを体験してみるということが、「MTTのマーラーを聴く」ことであり、そこが最も面白いのだと思います。

このドキュメンタリーは、その“perspective”がどういうものかを見せている。音楽だけ聴いて、MTTの“perspective”がどういうものか自分で推論することももちろんすごく楽しいことなので、一番のおすすめは、まず全曲のCDを聴いて自分なりのあたりをつけてからドキュメンタリーを観ること。それが一番おいしい。

さらにウィーンのマーラーのシンポジウムでMTTが話した内容も、ドキュメンタリーで言っていることの補足になります。
→(話した内容)マーラーのシンポジウムにティルソン・トーマスが登壇

今年はマーラー・イヤーでマーラーに関する書物もいろいろ出ていますが、多くは研究者や評論家の立場からのもの。人生かけてマーラー演奏に取り組んできた人が提供するものは、それらとはまた違った視点に立っているので、聴き手のものの見方を広げてくれる。ぜひ日本にたくさんいるマーラー好きの方に観ていただきたいです。

それにしても、ウィーンでこのビデオの上映会をやったとき、曲の映像含め、どうしてこんなに映像があるのか?と質問した人がいましたが、本当によくぞ撮ったものだと思います。根性がすごすぎておかしい(特に9番とハンプソンの組み合わせ)。演奏映像を撮影したコンサートには私も行きましたが、そのとき話していたプロットのとおりにドキュメンタリーのストーリーが展開していました。だから最初に相当ストーリーを練ってから組み立てていったのだと思います。いかにもMTTらしいけれど、手間とお金がかかっていてサンフランシスコ的。

コンサート映像

コンサート映像は交響曲第1番全曲(1楽章提示部の繰り返しがない?)と、マーラー・ジャーニーと題して、ドキュメンタリーで重点的に取り上げた作品を収録したもの(「さすらう若人の歌」、第5番アダージェット、第7番スケルツォ、第9番ロンド・ブルレスケ)。

<巨人>の演奏は、CD(2001年の録音)と比べると大人の演奏といった趣で、映像を撮った2009年までの8年間の彼らの歩みをうかがわせるもの。

私は1楽章の358小節、そこでディメンションが明らかに変わるのを見せている点がMTTらしいなと思いました。4楽章冒頭のアタッカのタイミングも、ホントにMTTだと思う。らしいと言えば、4楽章のストップ。これはドキュメンタリーで言及していましたが、やはり理由があった。。。

マーラー・ジャーニーの方は、あまり期待していなかったのですが、意外とどれも楽しめました。ドキュメンタリーでの主張と演奏がリンクしています。

夫はコンサート映像を観て、映像が速いテンポで切り替わるのが落ち着かない、もっと音楽をじっくり聴きたいのに、オーケストラの映像作品が出てきた初期の頃の映像みたいだ、と言っていました。

確かに。思い返せば、撮影のときカメラが12台もありました。KEEPING SCOREプロジェクトは、クラシック音楽を多くの人々にとってより身近なものにするという目的で作られているので、オーケストラをあまり知らない人に、各楽器をどういう風に演奏するのかということや、マーラーが採用した特殊な表現方法や楽器の組み合わせを見てわかるようにしようとすると、こうなったということなのでしょう。

TrueHDサラウンドの音は、十分堪能できるクオリティです。

(2011.6.17)

メディア掲載

  • SOUNDVISION
    テクノロジーをどう使って制作したか?主なスタッフ一人ひとりにインタビューしており、制作理念がわかる。素材の音からオーケストラの音につなげる編集についてや、巨人の演奏をSACDとは別の体験にしたかったというコメントなどが特に興味深い。最後はMTTのいつもの持論。

KEEPING SCORE マーラー編に関する過去記事

ウィーンにて

プロジェクトについて

コンサート映像を撮影したときの話

ドイツの批評家は早くも称賛

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