MTTのウンブリアの本にはニュー・ワールド交響楽団の夢が詰まっていた
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MTTのウンブリアの本にはニュー・ワールド交響楽団の夢が詰まっていた
イタリアのウンブリアの田舎でMTTが指揮している?本 という記事でご紹介した
Feast for the Senses: A Musical Odyssey in Umbria
が届きました。紀行文がベースなのだろうと予想していたのですが、それよりもニュー・ワールド交響楽団の若者たちと著者がウンブリアを訪れた記録を中心に、彼の地の風土や食べ物、お祭りなども紹介しつつ、全体を通すと、ニュー・ワールド交響楽団という壮大なドリームを共有している人たちの物語という印象を受ける内容です。
著者のリン・アリソン氏は世界最大のクルーズ会社であるカーニバル・クルーズを創業したテッド・アリソン氏の妻。この夫妻とティルソン・トーマスがニュー・ワールド交響楽団の共同ファウンダーとなっています。
99年に夫が亡くなった後彼女は、夫妻が関わってきたNational Foundation for Advancement in the Arts (YoungArtsというプログラムを提供している)とニュー・ワールド交響楽団の活動を続けながら、アートについて好奇心あふれる探求活動を行っている由。
この本のきっかけは、ウンブリアの魅力に開眼し、度々訪れていた彼女が、2004年のニュー・ワールド交響楽団のローマ公演後、MTTとそのパートナーのジョシュア・ロビンソンと3人でウンブリアを旅したこと。ベヴァーニャの劇場で客席に座って内部の装飾を見渡していたときに、このウンブリアのロケーションにニュー・ワールドの若者たちの音楽を組み合わせたらどうなるか?とひらめき、翌2005年と2006年の夏に実行に移したというもの。
ニュー・ワールドの室内楽アンサンブル・チームがミニバスに乗ってウンブリアを訪れ、城跡や劇場跡、広大な農園の敷地内、広場などの野外で室内楽コンサートを行いました。
若者たちは、出かける前はウンブリアなんて聞いたこともなかったり、普段のアメリカン・フードに比べると食べ物が信じられないくらいおいしく感じられたりで、豊かさとは何かを考える貴重な体験となったよう。またクラシック音楽の起源をたどることができる場所でその文化や風土にふれながら演奏したことで、大いに刺激になったもよう。
本では写真もたくさんあるのですが、これが微妙。ボッティチェッリ、マネ、ダ・ヴィンチなどの絵画に着想を得て、若者たちが楽器を演奏する姿とウンブリアのロケーションが組み合わせてあるのですが、MTTもモデルで参加している写真など、説明書きを読むまで何なのかわからなかった。
なお、MTTが指揮しているシーンは出てきません。若者たちが野外で演奏しているときに、強い日差しをさけるために傘をさしてあげたりしています。
ニュー・ワールド交響楽団創立の経緯
本の中では、ニュー・ワールド交響楽団を創設するに至った経緯も紹介されています。
1980年代初めにアリソン氏が元々関わっていたNational Foundation for Advancement in the Artsのプレジデントが、ヤング・ミュージシャンのアカデミーを作ったらと提案してきたこと。若者のオーケストラなんてヘタクソで聴いていられないんだろうとタカをくくり気乗りしなかったところ、数年後たまたまロンドンでショルティが指揮したユース・オーケストラの演奏会に行き、その音楽を聴いてやる気になったこと。
提案した方に誰かそれを実現できる適任者はいないかと聞いたところ、「オーケストラのアカデミーが必要だと言っているヤツがひとりいる」という答えでそれがMTTだったこと。
1986年に初めてMTTに会ったとき、その風情にちょっとビビったこと。
経営者として大成功したテッド氏を前に、MTTがアカデミーを実現させるためには何が必要でそれにはいくらかかるかの構想とプランをプレゼンしたこと。
創設の準備期間はどれくらいかかるかという質問にMTTが「最短で2年、できれば2年半」と答えたところ、テッド氏が「半年でやりましょう」と言い、1987年に創設、翌1988年に初のコンサートを行ったこと。
非常に興味深いと思います。
なぜ、このDVDがついているのか?
本にはDVDが3枚付属しています。
Keeping Score のチャイコフスキー編
売り物と同じコンテンツ(ドキュメンタリー&コンサート映像)。若干映像は売り物より粗め。
著者の夫テッド・アリソン氏は、若い頃ピアニスト志望で音楽に詳しかったのに対し、彼女はあまりクラシック音楽に縁のない生活を送ってきたため、始めの頃はMTTと話をするとき、音楽について何も知らないことがバレるんじゃないかとビクビクしていたのだそう。
ある日意を決して彼に何も知らないことを話してみたところ、
「あなたが生きているということだけで必要なことはすべて知っている」
という答えが返ってきて、気持ちが救われ以後楽しめるようになったのだそう。彼女はこのDVDには自分にMTTが言った言葉と同じメッセージが詰まっていると感じて、多くの人に伝えたいとの思いから、今回本に付属させたとのこと。
ウンブリアでの若者たちの様子を紹介するDVD
時間は短いのですが、若者たちが得たものがよく伝わってくる内容です。
ニュー・ワールド交響楽団の新キャンパスを紹介するDVD
工事中のニュー・キャンパスの建物内をヘルメットかぶったMTTが紹介して回るDVD。自分で構想しただけあって語る語る。MTTと交伍にフランク・ゲーリーが登場し、MTTの構想をどう具体化したか、どう考えたかを語っています。
未来を担う若者たちをインスパイアするために、音楽と建物がどうコラボするか?二人の芸術家がビジョンを共有して実現させたこと、そしてリン・アリソン氏のような支援者も同じ夢を共有して初めて実現したプロジェクトであることが伝わります。
おまけ:日本人の後学(?)のために
余談ですが、この本の中には1ページどーんと、MTTとジョシュア・ロビンソンのツーショット写真が掲載されています。
多くの日本に住む方は、年齢を重ねたゲイのカップルがどんなものなのかイメージわかないと思われますので、後学(?)のために一見の価値はあるかと思います。
ちなみに二人はとても幸せそうです。
本は米アマゾンだと送料込で3千円くらい。
(2010.12.9)
Tag: MTT ニュー・ワールド交響楽団