MTT/SFSの新譜アイヴズ&コープランドとベートーヴェンを聴いた
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MTT/SFSの新譜アイヴズ&コープランドとベートーヴェンを聴いた
マイケル・ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団が今月リリースした新しいCD
- アイヴズ/ブラント(編曲):コンコード・シンフォニー
IVES/BRANT: A Concord Symphony
コープランド:オルガン・シンフォニー(オルガン:ポール・ジェイコブズ)
COPLAND: Organ Symphony
- ベートーヴェン:
交響曲第5番 運命
ピアノ協奏曲第4番(ピアノ:エマニュエル・アックス)
の2枚を聴きました。
録音について
わが家では、最初にCDをかけてベートーヴェンの「ジャジャジャジャーン」が鳴った瞬間、(録音が)「粗い!」という声が上がりました。今回はMTT/SFSコンビのマーラーを支えたアンドレアス・ノイブロンナー率いるトリトナスではなく、カリフォルニアのチームによる録音です。したがって録音ポリシーが全く違い、かなりオンマイク。マーラーのように空間そのものを切り取ったような鮮烈さはありませんが、その代わりに再生条件によっては線の細い音楽が遠くで鳴っているように聴こえていたマイナス面は払拭されています。
MTT/SFSコンビも平凡な録音で出してきたということが、私は残念ですが、マーラーはいわば愛蔵盤になるべく創り上げたもの。それに対して、今回はコストをかけず普段の彼らをそのまま出してきたということなのでしょう。
このCDでティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団が言いたいことは
- この2枚の組み合わせで出してきたことと
- 曲ごとに拍手が入っていること
の2つに現れていると思います。
- 私たちのコンサートでは、普段こういう曲をこのレベルで普通に演奏しています
というのが彼らのメッセージなのでしょう。だから2枚とも聴かないと、面白さの半分しか味わえない。
以下、CD毎に簡単な感想。
アイヴズ&コープランド
2曲とも演奏される機会が少ない曲であり、CDに残せたことは貴重(特にコンコード・シンフォニー)。演奏もどちらもこのコンビならではのクオリティ。
オルガン・シンフォニーは、サンフランシスコ交響楽団はデイビス・ホールのルファッティ・オルガンが自慢なので、それを生かした選曲でもあります(ジャケット写真もそのオルガンの管)。ジェイコブズはレジストレーションも見事。
ベートーヴェン
ジャケット写真が素敵ですが、ゴールデンゲート・ブリッジの北にあるMt.Tamalpaisだそう(ハイキングに行ってみたい)。
演奏は、誰もが繰り返し聴いてきた曲であるにもかかわらず、新鮮な気持ちで一気に聴けます。正面から切り込んでおり、決して奇を衒っていないのに、新たな発見がたくさんあるところがミソ。
私はこのピアノ協奏曲第4番の演奏をKDFCのラジオ放送で聴いたとき、1楽章のカデンツァ~2楽章にかけて、かなり自由に展開しているように感じました(そのことを記事にもしました)。でも今回楽譜と照らし合わせて聴いてみたところ、その認識は誤っており、カデンツァは多くの演奏で弾かれている音よりも若干付加しているだけ、2楽章は全く楽譜の通りでした。彼らは表現だけで私にそう思わせたのでした。それだけではなく、私は普段楽譜を見ながらCDを聴かないのですが、見ながら聴いてみると、MTTのやっている「それは知らなかった」と思うような部分も全部楽譜に書いてあることでした。
この体験を通し、ベートーヴェンは奥が深いとあらためて思うとともに、MTTの楽譜から拾ってくる力を思い知りました。
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2枚のCDとも多くの方、特にシンフォニー・オーケストラはその大きさゆえ、多彩な表現や面白い試みがもうできないとあきらめている方にぜひ聴いていただきたいです。
(2011.2.10)