ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団に興味を持ったいきさつ
MTTとサンフランシスコ交響楽団に興味を持ったいきさつ
私も最初は、何ら皆さんと変わらない反応でした。
最初に彼らを見つけてきたのは夫でした。マーラーの新譜を片っ端からチェックしている彼が、出たばかりのマーラーの交響曲第6番のCDを手に、
「録音も演奏もすごくいい、すごいよ」
と言ってきたのでした。その時の私は、マイケル・ティルソン・トーマスという指揮者がいて、MTTと呼ばれていることは知っていましたが、どんな音楽なのかは知りませんでした。サンフランシスコ交響楽団については、確かエド・デ・ワールトの経歴に何か書いてあったくらいの記憶しかなかった。
夫が薦めるCDの箱を見たとき、
「サンフランシスコのマーラー?」(知らない)
「何でピンクなのか?」(帯がピンクだった)
「ずいぶんとインテリっぽい」(←)
「カッコつけんなよ」(←)
と思ったことを覚えています。そして私の中で夫の話は、「SACDで出ているマーラーの中でいい」(当時SACDは少なかった)という意味だと解釈され、じっくり聴いてみたいという気も起きませんでした。
そのうちに彼らのマーラーはリリースを重ね、CDの箱はうちのピアノの上に積まれていったものの、私はさわりを聴いて「ふうん」という程度でした。
ただピアノの上の片付けをするときにCDの箱が目に入り、「サンフランシスコっていうのは、ずいぶん雰囲気が違うんだな」と思ったことは覚えています。
そんな私が彼らに引っかかったのは、2006年夏にアメリカのアートマネジメントの雑誌をぱらぱらめくっていたとき。サンフランシスコ交響楽団が大口の寄付を獲得して驚かせたという記事が目に留まり、
「これ、あのマーラーのところ?サンフランシスコには何かあるのか?」
と思ったものの、それ以上の興味には至りませんでした。
それからしばらくしたある週末、またしても夫が「やっとマラ5が出た」と言って交響曲第5番のCDを買って帰ってきたので、そのときは全曲通して聴きました。
1楽章の第2主題の入りを聴いたとき、
「!」
今まで聴いたあまたの演奏とは、何か指向するものが違うと感じたのです。そして、
「この人たち、本当にこんな演奏をやっているのか?」
「どうしたらこんな演奏ができるのか?」
と思いました。練り上げ度とその表現度合いが尋常ではないと感じたからです。
この本当にこんな演奏なのか?生で聴いたら、たいしたことなかったりしないのか?ということと、何故こんな演奏ができるのかという2点は、非常に興味がわいたし、ぜひ自分で確かめたいと思いました。
その後、ウェブサイトと活動紹介のDVD(*)を見て、
「このオーケストラは、社会の役に立っている!?」
ということに、さらにびっくり。
何か私が知っているオーケストラとは、オーケストラの「存在」そのものが違うのではないかという予感がしたのです。
そして彼らが何やら問題提起しているらしい点にも非常に興味を感じました。
「行こう!今度の土日に!」
「どこへ?」
「サンフランシスコ!!」
「何で?」
「サンフランシスコ交響楽団がどんなものか見て来よう!」
「え〜??」
「ほら次の週末はMTTだし、マーラーだし。これを逃したら半年先までマーラーないよ」
結局、その週末(三連休だった)に二泊四日で確かめに出かけました(急過ぎてバンクーバー経由の飛行機しかなかった。夫はクレイジーだと言いつつ、ついて来た)。
半信半疑で出かけたサンフランシスコでは、本当にCDどおりのクオリティで演奏していたし、お客さんの演奏への惹き込まれ度合いもコンサートの雰囲気もそれまで体験したことのないものでした。
その日以来、彼らの音楽と活動に魅せられ、現在に至っています。
*補足
私が反応したのは、このビデオに入っている Making Music with You というおまけ。このビデオ、おそらくコーポレート・スポンサー集めのプレゼンテーション用に作り、ついでにDVDに収録したのだと思いますが、この中でMTTがしゃべっていたことが、当時私が持っていた問題意識に合致していたため、私は一発で「この人はすごい!」となったのでした。だから、ミュージシャンの方には、音楽だけでなく自分の考えを外に向けて発信することをおすすめします。ニュー・ワールド・シンフォニー創設の資金を提供したカーニバル・クルーズの創業者の方も、MTTがインタビューで自説をしゃべっていたのをたまたま見たのがきっかけだったのですから。