新しいクラシック音楽のコンサートを提示した「展覧会の絵」
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新しいクラシック音楽のコンサートを提示した「展覧会の絵」
ニュー・ワールド交響楽団(ニュー・ワールド・シンフォニー)の新キャンパス“ニュー・ワールド・センター”のオープニング・ウィーク、最終日です。
昨日は、オープンを祝うファンドレイジングのガラ・イベントがあり、446人の参加者から1.6百万ドル集めたそう(私はクリーヴランド管弦楽団のマイアミ・レジデンシーに行きました)。
今日は、“コミュニティ・コンサート”と銘打ち、コミュニティの人々に新しいコンサートホールをお披露目。17時と19時の二回公演だったのですが、チケットが無料だったのとステージ後ろ側のカテゴリーにお客さんを入れなかったので、チケット入手は激戦(抽選)でした。
今週のコンサートの中で、今日が一番新しいホールを使って今までにないクラシック音楽のコンサートを提供するという構想のスケールの大きさと可能性を示していたと思います。
1曲目:キャンディード序曲。
やはり新しいホールを祝うにあたって、バーンスタインをはずすことはできません。
演奏は普通に素直なもの(前にサンフランシスコ交響楽団で聴いたときもそうでした)。
私は17時からの回に行ったのですが、ステージ後方にある窓から自然光を入れていました。明るかったです。ファサードのカーブした形が美しいのと、窓の外にヤシの木が見えてすごくいい感じでした。
2曲目:サティのジムノペティ第1番
今日は曲ごとに最初にティルソン・トーマスによる短いイントロダクションがありました。このホールの特徴はホール内部の静けさにある(NC15)。だからその良さがわかるような静かな曲を演奏しますと言っていました。
指揮は、コンダクティング・フェローのテディ・アブラムズ。
客席の物音も含めて本当に「シーン、、、」とした空間にするのは、アメリカではとても難しいことだけれど、意図は伝わった演奏だったと思います。
3曲目:ムソルグスキーの「展覧会の絵」
最後はオープニング週間の目玉の一つである「展覧会の絵」。
サティが終わった後、自然光を入れていた窓に黒いシェードが電動で降りてきました。シェードはいくつものパートに分かれていたのですが、その長さも変化がつけてあって、シェードが降りるのを見るだけでも楽しめるようになっていました。シェードが降り終わるとオーケストラを照らす照明もオーケストラ・ピットのような明かりに変わり、会場が暗くなる。
私はこういうところがティルソン・トーマスの特筆すべき点の一つであると思います。昨日クリーヴランド管弦楽団に行きましたが、編成の違う曲に転換するセッティングの時間がどんくさかった。
今回の「展覧会の絵」は、南カリフォルニア大学(USC。ハリウッドに技術と人材を供給していることで有名。ジョージ・ルーカス等を輩出。ゲーリーとMTTもUSC出身)の映像芸術学部とのコラボレーションによる映像つき。
10枚の絵と5つのプロムナードを11人の学生と最近の卒業生、2人のファカルティの計13人がそれぞれ制作しました。
制作にあたっては、ハルトマンの絵に着想を得つつ、ティルソン・トーマスが音楽の構造について学生たちに話し、ディスカッションを重ねて創り上げていったそう。
USC恐るべし、というハイ・クオリティでした。
15のパートはそれぞれ違う手法、キャラクターによっていて、アニメーションもあるし、実写と組み合わせたものもありました。例えば、グノムはイメージ的には笑うセールスマン(わかります?)みたいなシニカルなキャラの影が5つある帆のスクリーンにびよ~んと伸びたり、意外な場所から現れる。チュイルリーは子どもがいろんな場所で遊びまわって細かく動くアニメーション。リモージュの市場は、世界のいろんな市場の様子を撮った映像が音楽のテンポに合わせて高速で切り替わるコラージュ。築地のマグロのセリもありました。
そして照明が素晴らしい(シルク・ドゥ・ソレイユの方を呼んだそう)。オーケストラはオーケストラ・ピットのような明かりが基本なのですが、その基調が映像に合わせて青、赤、黄色と変わる。また舞台後方の窓にかかるファサードの白いカーブにも照明をあてて変化させていました。例えば、アニメーションがグレーを基調に濃いピンクをさし色に使っていたところでは、照明も濃いピンクに合わせていました。
とにかく造形的なスクリーンがぐるりと取り囲むのをフルに生かした映像は、それぞれが個性的で圧倒的スケール。終曲のキエフの大門は、ティルソン・トーマスが書いた文章によると、浮世絵に触発されたものだそうですが、花火のアニメーションの光が上から下に落ちていく動きと、日の出を動くデザインで表現した下から上に光が湧き上がっていく動きは躍動感があり、帆のスクリーンを最大限に生かしていたと思います。
最後オーケストラも荘厳に鳴る中、アニメーションの色がタイの仏像の色みたいに神々しくて、音と映像に包まれるそのスケールに圧倒されました。本当に未だ体験したことのない世界。クラシック音楽でこんなことができるなんて、ただただびっくりです。
オーケストラの演奏は、サンフランシスコでやっているような超練り上げ調ではなく、普通に素直なもの。印象に残るきれいなところもありましたし、健闘していたと思います。
映像の側を音楽に合わせて動かしていたので、音楽に無理は全くナシ(ティルソン・トーマスの動きをウォッチして指示を出す人と映像を動かす人とで分担していたそう)。映像と音楽が相関はしているのだけれど、それぞれにクリエイティブであるという、そのさじかげんが絶妙でまさにコラボレーション。
お客さんの反応もすごくて、曲が終わった途端に総立ちでした(私もブラボー叫んだ)。
この新しいコンサートホール、何だってできそう。これから何が出てくるのか、これがスタートラインですから今後に大いに期待します。
そして、文化立国、観光立国を標榜する文化庁、経済産業省の公務員、並びに文化政策を論じる方々には、マイアミに来てゲーリーの建物とMTTのコンテンツを体験することを強くお勧めします。
(2011.1.30)
追記
キエフの大門のアニメーションを制作したのは、日本人ビジュアル・アーティストの我真りあ(RIA AMA)さん。私はローマ字表記のお名前を見て日本人だと気づかなかったのですが、こちらでニュー・ワールドでの制作について紹介されています。