リゲティのレクイエムとアルゲリッチのラヴェル
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リゲティのレクイエムとアルゲリッチのラヴェル
今回サンフランシスコで聴く最後のコンサート。注目点は、何と言ってもプログラムです。
プログラム:
- Gabrieli
In ecclesiis - Ligeti
Requiem - Ravel
Piano Concerto (Martha Argerich) - Liszt
Tasso: Lamento e Trionfo
→ホールの階段正面。ただ今、来シーズンの定期会員セット券売出し中
→ホワイエには、コンサート後に行う新企画の案内もいくつもありました。
1曲目ガブリエリ
MTTが16世紀のガブリエリ?がんばるんだと思っていたら、やはり開始前にSFSコーラスディレクターのRagnar Bohlinが指揮しますとのアナウンス。世の中適材適所。
曲は、指揮者の周りを合唱がぐるっと囲って、女声男声、高い声低い声が方々から聴こえてくるというもの。2拍子なのだけど、曲の最後は必ず3拍子のアレルヤで終止するという形式。このコーラスディレクター氏は期待の人材らしく、いろいろ任せられているようです。合唱をうまくまとめていました。
2曲目リゲティのレクイエム
こちらは大編成のオーケストラに合唱も大人数。合唱のパートが計24(!)に分かれているとプレトークで言っていました。スコアがすごく大きい。1ページがA3よりさらに大きい感じ。譜面台から大きくはみ出ていました。女声2人のソリストが入るのですが、ともにこの曲の経験者だそうです。
Hannah Holgersson, soprano
Annika Hudak, mezzo soprano
曲はIntroitus、Kyrie(Dies Iraeが続く)、De die judicii sequential、Lacrimosaの4曲で構成。
出だしのバス・トロンボーンの細く小さな音が持続して、その上に他の楽器や声が重ねられていきます。そしてひたすら持続する中でテクスチュアと綾が変化するのですが、たとえて言うなら、ムンクの叫びがずーっと叫んでいる感じ。
これとの対比で、Dies Iraeは打楽器の衝撃音などが入りドラマチック(不協和音は変わらず)。3曲目が長くていろいろあり、最後Lacrimosaは静かに終わる。
各曲とも、音が消えてからも指揮が1〜2小節続いていました。これは前に聴いたLontanoのアイディアと同じ。
私は先月「ル・グランマカブル」を観に行ったばかりだったので、ソリストの歌の部分など、「似ている!」と思いました。後でプログラム・ノートを読んだら、「ル・グランマカブル」はレクイエムからたくさん使っていると書いてありました。
合唱の人たちは、それぞれ音叉で音を取りながら歌っていたそうで、大変!
曲が終わったときに「ブラボー」が飛んだところが、サンフランシスコだと思いました。
MTTは今日もハッスル。めずらしく指揮棒を用いずに振っていました。はじめに曲についてマイクを持って話したのですが、リゲティが過ごした場所と時代を想起すること、彼が電子音楽からまた自然な素材に戻った時期の作品であること。ずっとこの曲をサンフランシスコで取り上げることを構想してきたので、実現できてうれしいと言っていました。
アルゲリッチのラヴェル
コンサートの後半はアルゲリッチをゲストにラヴェルのピアノ協奏曲。
アルゲリッチのラヴェルと言えば、「夜のガスパール」のレコードとCDを500回くらい聴いたと思う。したがって、私は彼女のファン。生で聴くのは学生時代以来(チケットが高いから)。現在の彼女はどんななのでしょう?とても楽しみにしていました。
結論から言うと、やはり今はピークではないという印象を受けました。鋼のようなタッチは健在で、アルゲリッチらしさはあるのですが、やはり才気あふれる感じがみなぎっているという印象は受けませんでした(1941年生まれだそうです)。
これは先週聴いたムターが、今が聴き時のパワーにあふれていたことにもよるのかもしれませんし、CD聴きすぎて私の中のアルゲリッチ像が一人歩きしていたのかもしれません。
CD聴きすぎと言えば、グレン・グールドのゴールドベルクもそれこそ500回なんてものじゃきかないくらい聴いているわけですが、彼が不滅の評価を保てるのは、生と比較されることが永遠にないからだと、今日の演奏を聴いて思いました。
さて、演奏に話を戻すと、印象に残ったのは、1楽章はハープ。ものすごく印象的でした。2楽章はピアノのソロにオーケストラが入ってくる部分。何度聴いてもあのサウンドを作ったことは驚異だと思います。3楽章Jazzyなところ、ポルタメント(?)を思いっきり効かせていました。
私の感想はこんなですが、曲が終わったとき、客席がものすごく沸きました。ということで、アンコールに3楽章をもう一度演奏。すごく得した気分でした。アンコールのときの方が、より突っ込んだリズムで弾いていたと思います。
最後はリスト
プログラムの最後はリストのTasso。初めて聴きました。曲はワーグナーとチャイコフスキーを足して2で割ったようなもの。最後に普通にメロディーと和声がある曲で、また少し感覚が揺り戻される感じがしたところで、華やかに勝利で幕。
今日のプログラムは、今までティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団コンビを聴いてきた中でも、非常にチャレンジングで冒険的な試みだったと思います。
特に前半の合唱作品2つを並べたところが、やはり長年どうリゲティのレクイエムを提供しようか練り上げてきた成果だったのではないでしょうか。
(2009.3.5)
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【追記】このプログラムは反響があったようです。4曲の取り合わせと4曲それぞれが言わば変わっているという点で。最初の合唱曲2曲は、宗教的な素材で時代と場所が異なる。後半2曲はピアノの名手でもあった作曲家の作品でありながら、両方ともにその作曲家の代表作のキャラクターとは違う。リゲティとリストはハンガリーつながりでもある。
アルゲリッチ効果で、リゲティのレクイエムを4公演sold outで披露してのけたという戦術面も要チェック。