マーラー千人の交響曲レコーディング完全リポート:最終日
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マーラー「千人の交響曲」レコーディング完全リポート:最終日
ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団のマーラー「千人の交響曲」のライブ録音、あっという間に最終日です。
本日の席は、ロジェのGカテゴリー。2階一列目のセンターという、デイビスホールで一番良い席です。今日の公演は定期会員のセットに入っていないので買うことができました。
サンフランシスコ交響楽団では、日曜のコンサートはカジュアルな位置づけらしく、今日は男性はブレザーにネクタイ、女性はパンツというスタイル。ソリストたちもそれに合わせていました。MTTはいつもと同じ(ノータイでシャツがスタンド・カラーになっていて、カラーの上部がブラックになっている)。
最高の演奏は出るのか?
演奏は、今日はオーケストラも思い切って伸び伸び弾いているように感じられました。昨日よりもさらにアンサンブルの精度が上がっています。予想を超えて、日を追う毎にだんだん完成度が上がっていくことに驚きました。
今日は、パッと聴いた限りで気づくミスは、ほぼゼロに近かったのではないでしょうか。第一部の最後、Gloriaからテンポが非常に速く一気に駆け抜けるのですが、バンダが気持ち遅れ気味だったかという程度。
お客さんも演奏者の気迫があまりに圧倒的だったので、第二部が始まって少しくらいのところから、ほとんど咳の音も出なくなりました。もっとも第二部が始まる前に、MTTが客席見渡してプレッシャーをかけていたことにもよるのかもしれません。
彼らはいちいち微調整が入るのですが、今日は合唱団が座って歌う箇所がいくつもありました。やはり立ったり座ったりする音がうるさかったのでしょう。今日は神秘の合唱の出だしも、先の3日よりもだいぶ音量を下げていました。そのために入りを若干探っていたように聴こえましたが、どちらが採用になるのでしょう?
今日の演奏は、ほぼ完璧だったのではないでしょうか。オーケストラ、合唱、ソリストの全部を高い水準で揃えられたし、細部の表現も全体の構築もどちらも達成できていたと思います。
とにかく圧倒的なパワーが炸裂する部分と繊細な部分の振幅が大きく、その間で多彩な表現が自由自在に繰り出てくるのです。
ティルソン・トーマスの棒は、特に第二部で曲調が変わるところの入りのエネルギーの集中が強烈。その劇的さが音楽を牽引していたと思います。そして美しく出るところが、舞い降りるかのようにすっと翻るのです。
それはほとんど超人的テンションで、音楽に命を捧げているように見えました。4日間を通して、曲の最初から最後までMTTの集中力には波がなかったです。
彼の途中で失敗があっても、全くテンションが下がらない。そして成果を出すところまで確実に持って来るという仕事に対する姿勢には、大いに考えさせられました。
総括
サンフランシスコ・クロニカルのレビューを読んだら、過去2006年に千人をやったときを含めて、こんなにすべてが高い水準で揃ったことはなかったそうです。初日のレビューだったのに大絶賛で、ちょっと信用性に欠けますが。
私は初日の出来を聴いたとき、ウェブサイトを運営して実名顔写真入りで彼らの紹介をやっている以上、単なる買いかぶりでしたとか耳がおかしかったみたいですでは済まない、情報発信している者の責任があるのにどうしよう?という思いがよぎりました。しかしその後の3日間は、心から彼らの紹介をしていて良かったと思える演奏でした。チームの力というのは、本当に不思議なパワーを秘めているのだと実感。
およそこれ以上の「千人の交響曲」というのは、想像つかないです。
CDのリリースは2009年秋の予定で、まだまだ先ですが、交響曲の最後を飾るにふさわしい内容だったので、大いに期待できます。
曲が終わったときの客席の反応もすごかったのですが、MTTも最後、客席に向かって、サルがシンバルたたく人形みたいに拍手していました。
今回4日間通して聴き、うまくいったり行かなかったり、マイナス面が連鎖していく様子も、そうかと思えば、1足す1は2以上の力が出てきたりと、組織のパワーのいろいろな側面をつぶさに見ることができて非常に面白かったです。
他方でそもそも私は、風邪をひくと咳が出る人なので、この数週間絶対に風邪をひいてはならないという圧迫感はかなりのものがありました。念のために咳に効果があるという喉あめを演奏直前になめ、第二部が始まる前にもなめ、さらに他の人が咳をしないようにひたすら祈っておりました。
ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の応援ってストレスかかるのです。
録音はこの通りだし、ヨーロッパ・ツアーなんかだと、今度はアメリカン・オーケストラとアメリカン・サウンドを世界に問うみたいなノリになるからとんでもなくチャレンジングだし、一番気楽なデイビスホールでさえ、最近は超定番曲をいかに新鮮な視点で演奏できるかという、これまた過激チャレンジ企画だし。
またそこが聴く面白さでもあるのですが。
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ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団がマーラー・プロジェクトを始めて間もない頃、ファンになるとは夢にも思わなかったときから、「千人やるときは、サンフランシスコに行ってみようか」と話していたことを思い出すと、本当にそれが実現したことに思いもひとしおです。
そして彼らにとっても節目となるライブ・レコーディングの場に立つことができて本当に良かった。これからも
MTTについて行くぜ!
(2008.11.23)