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ベルクとベートーヴェンのウィーン楽派プログラム

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ベルクとベートーヴェンのウィーン楽派プログラム

ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団のウィーン公演の2日目。今日のプログラムは、ベルクのヴァイオリン協奏曲とベートーヴェンの交響曲第5番「運命」というウィーンもの。これはこれでアメリカン・オーケストラからの大きなチャレンジです。

アメリカン

まずその前に、今年の音楽祭のテーマである「マーラーとアメリカ」の「アメリカ」作品を披露します。これも非常に重要。

曲はヘンリー・カウエルのシンクロニー。

初めて聴きましたが、最初にトランペットのちょっとジャズ風な無調の長いソロがあります。オーケストラの部分は音が多く、アイヴズとコープランドを足して2で割った感じ。最後が非常にリズミックで、MTTらしさが出ていました。

演奏はいつものサンフランシスコ交響楽団でした。

ベルクのヴァイオリン協奏曲

2曲目はクリスチャン・テツラフを迎えてベルクのヴァイオリン協奏曲。

これは最高の出来だと思いました。

この曲はこのコンビで昨年のルツェルン音楽祭でも演奏しましたが、その時よりずっと踏み込んだ演奏に感じました。

テツラフは最初の繊細な音から始まり、2楽章の冒頭などの劇的な部分の激しさや深い響きに至るまで、非常に幅広い表現を高い集中力で演奏し、聴衆を惹き込んでいました。そしてそのヴァイオリンに、オーケストラの個々の楽器が組み合わされてかけ合いになったり、ハーモニーが形成されるのですが、組み合わせが聴き手にわかるように明確に浮かび上がっていました。

また打楽器が入るリズミックな部分の精度が非常に高いので、メロディアスなところとの対比やコンビネーションが生きてくる。

この曲は、四角四面に弾きがちで、楽譜首っ引き状態から離れて、音楽が自由に動き出すかのような域に至るのはなかなかに難しいと思いますが、すごく自由で親しみを感じる演奏でした。

ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」

コンサートの後半はベートーヴェンの運命。

これは安心して聴けました。

CDも出ており、基本はCDの解釈と同じ。たっぷりとしたテンポで堂々としたもの。印象に残るのは、やはり2楽章に盛り込まれている数々の表現。一つひとつは誰にでも思いつきそうなアイディアなのだけれど、それをあらゆる音で徹底して演奏するのはありそうでない。そこが新鮮さを感じさせるのだと思います。またティルソン・トーマスは曲調が変わるつなぎ目の部分が自然で、演奏の流れがよいのも特徴。今回ヨーロッパで他の指揮者を聴いた中では、演奏に変化が起きる部分で「何で??」と思ったことが何度もありました。そう感じさせないのは、MTTの練り上げの威力でしょう。

4楽章もたっぷりと大きく歌い、ホールもベートーヴェンくらいを演奏するのに適しているようで、輝かしい響きが立ち昇っていました。

4楽章と言えば、休憩時間にホルンのメンバーが4楽章のハーモニー(中声部)のパート練習をしていました。休憩時間にパート練習しているオーケストラを見たのは初めてでびっくりですが、サンフランシスコっぽい。

ティルソン・トーマスは終始横綱相撲といった風情で、ついに誰にも文句をつけられない巨匠に至ったか!!と思わせるものでした。

アンコール

アンコールは知らない曲だったのですが、曲調から察するにブラームスのハンガリー舞曲のどれかだと思います。ジプシー的なメロディーでアップテンポのリズミックな短い曲。いつも思いますが、ティルソン・トーマスはアンコール・ピースの選曲がうまい。サンフランシスコ交響楽団の良さがクローズアップされるような曲をいつも選んでいます。

(追記)ハンガリー舞曲の第10番とのこと

MTTは途中いつものジャンプをしちゃって、せっかく「巨匠だ!」と思ったのに、「やっぱりMTTはMTTだった」で幕。

会場のお客さんは観光客もおらず、地元の音楽を聴きたい人が来ていて、演奏にも聴き入っている様子でしたが、彼らの演奏はどう聴こえたのでしょう。

観客の反応は良かったですが、いつも聴いている演奏とはずいぶん趣が違うと感じたのではないでしょうか。そう思ってもらえたとしたら成功なのだと思います。

(2011.5.22)

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