ニュー・ワールド交響楽団の新キャンパスが意味するもの
トップ>ニュー・ワールド・センターが遂にオープン>here
ニュー・ワールド交響楽団の新キャンパスが意味するもの
1月25日ニュー・ワールド交響楽団(ニュー・ワールド・シンフォニー)の新キャンパス “ニュー・ワールド・センター” が遂にオープンします。
オープニング・コンサートには、アレックス・ロスを始め主要な評論家、全米芸術基金(National Endowment for the Arts)のチェアマン、メジャー・オーケストラのエグゼクティブ・ディレクターらがマイアミにやって来る予定。なぜこのプロジェクトに注目が集まっているかというと、それは、
オーケストラのあり方そのものへの大きな挑戦だから。
聴衆の高齢化、財政難、人々が他のエンターテインメントにより魅力を感じているなど、現代のオーケストラが抱える諸問題を打破しようという試みが随所になされています。
ポイントは、
- 都市開発や観光のシンボルとなるスポットの中心がオーケストラであること
- 人々がふらっとやって来て中をのぞいてみたくなるような建物とつくり、そして実際に音楽を楽しむことができる機会の提供
このプロジェクトの内容についておさらい
概要
- マイアミ・ビーチ市の中心部に2.5エーカー(約1ヘクタール)の公園、キャンパス、駐車場からなるセンターを建設するもの。
- 当初の構想から10年がかり。建築工事は2008年1月に着工。
- 官民共同プロジェクト。建物の総工費160百万ドル。郡や市など公的部門から45百万ドル、残りを民間から調達。同種の教育機関が他に存在しないため、寄付は地元フロリダのみならず、全米から集まった(ニュー・ワールド交響楽団では、基金の増額分を含め、総額200百万ドルの資金調達キャンペーンを行った)。
キャンパスの建物について
- かけだしの頃、両親共働きの一人っ子であったMTTの放課後の面倒を見ていたよしみでフランク・ゲーリーが設計。コンサートホールの音響は、永田音響設計の豊田泰久氏が担当(Kitaraの音響をティルソン・トーマスが気に入ったことがきっかけだそう)。
- コンサートホールは最大で756席。多様な編成のコンサートや様々な教育活動に利用できるよう、ステージの大きさや客席のセッティングを変更可能。
- コンサートホールの天井には、360度のマルチスクリーンがあり、映像等マルチメディアを駆使することで、プログラムの可能性を広げることができる。ウェブキャストの設備も備える。
- コンサートホールは、メインの舞台の他に4つの演奏スペースを設け、例えば一人の作曲家のオーケストラ作品、ピアノ作品、室内楽作品を一つのコンサートで違う舞台から連続して演奏することができる。
- コンサートホール、練習室をはじめ建物全体に17マイル(約27㎞)以上の光ファイバーを張り巡らせ、Internet2という技術を用い、場所の制約なく合奏、教育を行えるようになっている(遠隔地から作曲家本人が参画するメリットを強調)。
- 建物の外壁の一面が7000平方フィート(約2100㎡)のプロジェクション・ウォールになっており、公園に来た人々に無料でコンサートをライブ中継で流すことができる(1000人の観客に対応)。
- 公園に面してガラス張りのラボラトリー(サントラスト・パビリオン)がある。これはコンサートホールの舞台と同じ広さを確保しており、リハーサル、レクチャー、アウトリーチなど様々な用途に使えるもの。中で音楽をやっている様子を公園に来た人々が見ることができ、また2階からラボラトリーをのぞけるようにもなっている。
- キャンパスは個人練習室、室内楽などのアンサンブル・ルーム、パーカッション・ルーム、本格的な編集室等を備える。全室に録音録画設備あり。
- 最上階がライブラリーと屋上緑化のオープン・ガーデンになっており、明るい雰囲気で勉強とその気分転換ができるようになっている(これはサンフランシスコ的発想かも。サンフランシスコの家は最上階が一番よい場所で、たいていガラス張りのサンルームが湾を見晴らすようにできているから)。
- 年間のオペレーティング・コストはリンカーン・シアターのときの9百万ドルから12百万ドルに増加見込み。ホールやラボラトリー(170席)は他団体にも貸し出す。
- 30分2.5ドルのミニ・コンサート、夜10時スタートのDJ付きコンサート、コンサートホールの床をフラットにできることを生かした生演奏付きのダンス・パーティなど様々な企画があり。
地元の期待について
ニュー・ワールド交響楽団の拠点であったリンカーン・シアターは、元々映画館でした。シアターは閉鎖され、通りもさびれていたところ、1987年にニュー・ワールドが劇場を借り受けてリノベーション、コンサートホールがある教育施設に生まれ変わりました(その後買い取った)。
ニュー・ワールドが出来て以来、フェローたちの若いエネルギーとMTTのエッジーな音楽により、通り(リンカーン・ロード)のイメージは一新。今や歩行者天国のしゃれたカフェやレストラン、ショップが並ぶ通りになっています。
というわけで、マイアミ・ビーチではニュー・ワールドは街を変えたという評価。
今マイアミではArt Baselというアート・ショーの成功で、アートの街として盛り上げようという機運が高まっており、ゲーリー+MTTというまたとない組み合わせに更なる期待が集まっています(ニューヨーク・タイムズのトラベル面で、2011年に訪れるべき場所の一つにも選ばれました)。
サウスフロリダ・クラシカル・レビューが詳しく紹介
地元コミュニティとの関係という視点からの記事
New World's New House Already Feels Like a Home
オープニング・コンサートの模様はこのサイトでもリポート予定
(2011.1.23)