ティルソン・トーマスMTTのマーラー交響曲第7番
マーラー交響曲第7番
旧盤との比較
ティルソン・トーマスの7番には、評価の高いLSO盤がありますが、私はそれぞれに良さがあり、SFS盤と甲乙つけがたいと思っています。
両者とも基本的なコンセプトは同じ。
特徴としては、LSO盤は録音セッションで作り込まれており、全体的にテンポをゆったりとっていて、オーケストラに歌わせた演奏。
対するライヴ録音のSFS盤は、音の情報量が圧倒的に多く、演奏全体が放つ空気を感じることができる。テンポや表現等の面でより多彩なチャレンジをしていて、サンフランシスコ交響楽団の高精度アンサンブルをフルに生かした演奏だと思います。
聴きどころ
立ち昇る美しさ
ティルソン・トーマスは美しさの表現ということにかけては、他の追随を許さない極めぶりですが、本当に立ち昇ってくるような、湧き上がるような感じがします。
この7番でも1楽章の展開部の最後、317小節に入る前のハープから始まって、331小節のシンバルで頂点となり、再現部の前で「stop」に至る一連の美しさは、聴き逃せないポイントです。
この317小節に入るハープのグリッサンドですが、私が聴いた他の演奏では、下から上へシンプルに弾いていました。ティルソン・トーマスは途中でもう一度重ねて下からすくっており、とても印象的に聴こえます(ハープの奏法で何と呼ぶのかわかりません)。
MTTクオリティ
ティルソン・トーマスの演奏を聴いていつも思うのは、アウフタクトのタイミングがこれ以外は考えられないくらいジャストだということ。
5楽章のテーマの入りなどもいちいち感心しますが、私が好きなのは、1楽章の12小節に入るアウフタクトのスタッカートが書いてある16分音符。これをパーンと出している演奏は少ないのですが(私が聴いた中ではハイティンク(コンセルトヘボウ)も切ってました)、とても効果的だと思います。
夜の歌
中間の2・3・4楽章も聴きどころだと思います。
テンポや表現で細かいチャレンジをたくさんやっています。特に3楽章のサンフランシスコ交響楽団のアンサンブル、4楽章の終わり方など。
MTTは毎日違う
サンフランシスコ交響楽団は、毎週一つのプログラムでだいたい4回コンサートをやっているのですが、ティルソン・トーマスは音楽を毎日何かしら変えてきます。
MTTは何を仕掛けてくるかわからない。
これはティルソン・トーマスが、即興演奏のように何が飛び出してくるかわからないライヴ感を重視していることによるらしいのですが、この辺りもオーケストラ・メンバーが、他のオーケストラではありえないくらい皆指揮者を見て弾いている理由の一つなのだと思います。
この7番の1楽章も、499小節から2小節(スネアドラムがリズムを刻むところ)だけ極端に速いテンポになりびっくりした方も多いと思いますが、2007年に演奏したときは、そのアイディアはやめていました。
MTTの良さが出る曲
5楽章は曲想がころころ変わりますが、ティルソン・トーマスはその一つひとつを新たなカードを切るかのように変えて繰り出してきます。ここは同じく情に訴えるタイプではないブーレーズ盤(クリーブランド)が、一貫した表現にしているのと対照的です。
ころころ変えても一つの音楽として違和感なく展開していけるというのは、ティルソン・トーマスの練り上げの威力でしょう。
この7番を演奏した2007年秋のヨーロッパツアーでは、ドイツメディアが、MTTは魔法使いみたいだとか、シュールだとか書いていました。まさにその通り。私もMTTが魔女に見えるときがあります。
(2008年10月記載)
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