ティルソン・トーマスMTTのマーラー交響曲第2番<復活>
マーラー交響曲第2番<復活>
His Orchestra の世界
ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の<復活>で印象的なのは、サンフランシスコ交響楽団から出てくる表現が、どこまでもMTT色で自由自在であること。
よくメディアが「His Orchestra」と書いていますが、私はこれを見る度、字面以上の意味を感じざるをえません。
なぜこういうことが実現できるのかと考えると、コミュニケーションの量の話に行きつくのですが、アメリカの評論家も指摘している通り、ティルソン・トーマスは自分の創りたい音楽を人に伝える言語能力 / 非言語能力が傑出しているということにもよるのでしょう。
MTTと呼ばれて
ティルソン・トーマスの音楽と他との違いは何かと考えてみると、私はひとつに「スリリングさ」があると思います。これはクラシック音楽のアーティスト一般には見かけない特徴です。
ティルソン・トーマスの音楽には、のるか反るかぎりぎりまで追い込んだようなスリリングさがあるのです。結果はやってみるまでわからないけれど、今回はこう考えたからこれで行くというメンタリティが彼は「スカッと」している。
こういうこともMTTと呼ばれるゆえんなのだと私は思います。
録音のダイナミズム
この<復活>では、録音レンジの幅がとりわけ広く、オーディオ的にも楽しめます。
Pで歌い上げるところのニュアンスの変化が、常識を遥かに超えてますし、強音の残像も鮮やかに再現されます。
聴きどころ
“impeccable clarity” 冴えわたる
“impeccable clarity”(一点の曇りもない明晰さ)というのは、欧米の評論家がMTTを評するときによく使う言葉ですが、この演奏を聴くとその意味を実感できます。
補足:precise direction と書かれているのもよく見ます。
MTTの付点のリズム
ティルソン・トーマスの音楽は、躍動感あふれるリズムが身上ですが、中でも付点のリズムが絶妙に決まる。
この復活の1楽章でも、何度も繰り返され、随所に現れてくる付点のリズムのすべてが、統一したスタイルで決まっているということが、非常に音楽を特徴づけていると思います。
ジンマン&チューリッヒ・トーンハレも揃っていますが、こちらはナチュラルな躍動感がある感じ。MTTのは耳に残ります。
1楽章の再現部〜コーダ
私がティルソン・トーマスらしいと思うのは、1楽章の再現部〜コーダの部分です。
1楽章は音楽が盛り上がるところ満載で、再現部に入る前も下降音型によって劇的に突入します(MTTは、再現部の主和音に解決する前のDの音をひっぱってくれていて満足)。それ以降、ここまでのように劇的に盛り上がるところがないにもかかわらず、ここに聴かせどころのヤマを持ってきている点は、特筆に値すると思います。
弦の歌い方のニュアンスの多彩さも欠かせないポイントですが、何と言っても、ラストに向けての先の読めない、謎めいた表現が秀逸。
音楽における線
ティルソン・トーマスは、KEEPING SCORE の教育プログラムで「音楽における線とは何か?」というお題を出しているのですが、彼の音楽を聴くと、この「線」ということを考えます。
非常に造形的なのです。
ぜひディスクを聴いて体感してみてください。
(2008年10月記載)
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