PMF、東京、マイケル・ティルソン・トーマス

ティルソン・トーマス&PMFオーケストラ東京公演

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ティルソン・トーマス&PMFオーケストラ東京公演

PMF2009が、ティルソン・トーマスの指揮によるPMFオーケストラ東京公演の大成功で幕を閉じました(7月29日サントリーホール)。

公演を聴き、本当に胸がいっぱいで昨夜はあまりよく眠れませんでした(私にとってめったにないことである)。

私はティルソン・トーマスの実演をサンフランシスコ交響楽団とニューワールド・シンフォニーでしか聴いたことがなく、これらの手塩にかけたオーケストラではなく、はたまた長い関係を続けているロンドン交響楽団やそもそもオーケストラのボトムのレベルが高いシカゴ交響楽団などとは違う若者たちのフェスティバル・オーケストラで、どういう演奏を聴かせてくれるのかという点は全くの未知数でした(PMFオーケストラを生で聴くのも初めてでした)。4月のユーチューブ・シンフォニーを聴いた限りでは、MTTは安全運転で来るのか?という気もしましたし。

しかし、札幌・大阪から聞えてくる便りで、どうもMTTはいつもの調子らしいと。これは期待できそうということで、残るは「どうか神経質な面が強く出ませんように」と祈るのみ。

シンフォニック・ブラスのためのストリート・ソング

客席も無事埋まって開演。ブラスのメンバーと一緒に登場したMTT。出てきた姿を見たとき、

「ピリピリしていない。今日は大丈夫!」

演奏は、とても完成度高く仕上がっていたと思います。ここまで来るのにどれくらいの時間をさいたのでしょうか?ここのところエンパイヤ・ブラスの金管五重奏版を聴いていたのですが、シンフォニック・ブラス版もとてもよくできていると思いました。

技量のごまかしが効かないので心配しましたが、聴く人にティルソン・トーマスのセンスがよく伝わったと思うし、全体練習をマーラーに注ぎ込めたという点も含め、この曲選んで正解だったのではないでしょうか。演奏が終わったとき、奏者一人ひとりと握手し、若者たちと一列に並んだMTTが非常に彼らしいと思いました。

マーラー 交響曲第5番

休憩時間に舞台に出てきて音出しするPMFオーケストラのメンバー。もうそれだけで若いエネルギーが舞台から立ち昇って来て、まるでマイナスイオンを浴びているかのよう(私はP席だったので、舞台が近かったのです)。

冒頭のトランペット、噂どおり素晴らしかった。全く危なげないどころの話ではありません。ホルンのトップを吹いた女性もそうですが、出てきたときから堂々としていて、楽々とソロをやり遂げる姿は頼もしい限り。

演奏は、ティルソン・トーマスが自分の音楽を表現することをオーケストラに妥協なく要求し、それに若者たちが見事に応えていたということに尽きると思います。譲らなかったMTTの執念にあ然とするばかりだし、若者たちも本当によくついて行った!

私は今回応援に全力投球だったのと、胸がいっぱいで細かいことがすっとんでいるので、レビューは書けません(ある程度レビューを書くことを前提に聴いていないと書けない)。そのかわり他の方がたくさんレビューを書いているので、そちらを紹介したいと思います(皆さんも、私が言いそうなことは想像つくだろうと思うので、その方が参考になるのでは)。

一つだけあげるとしたら、私はやはりアダージェットの最後の音の繊細さ。ああいうことは、普通思いついたとしても実行しないだろうというくらい難易度が高いのでは。よくやったと思います。オーケストラ・メンバーが必死でみんなの顔がコワかったという声がありましたが、当然だと思います。次から次へと大量にものすごく難しいことにチャレンジさせていたのですから。

そしてティルソン・トーマスの記者会見にあった、

「いま音楽を教えるのにリズムやビートが先行している。しかし、ハーモニーやメロディーなどのデリケートな感じがもっと大切」(asahi.comより)

という言葉通りの演奏だったと思います。ハーモニーへの神経の配り方というものをとても感じました。

最後は大音量のパワーでフィナーレ。大きな音のティルソン・トーマスを私は初めて聴きました。曲が終わったときとカーテンコールの歓声もすごかった。

舞台から引き揚げるとき、オーケストラ・メンバーがお互いを称えあっていた姿が印象的でしたが、ファンはずっと拍手し続けていました。

「もう着替え終わっているよ」

と話していたら、出てきたMTTが本当に着替え終わっていておかしかった。彼は演奏終わったらサッサと着替えて、もう次へスタートしちゃっている人なのだと私は思う。

話はそれますが、コンサート中客席に座っていて感じたのは、日本人ってすごくまじめだということ。演奏中皆ものすごくまじめに聴いている。これは驚異的にすごいことだと私は思いました。皆さん、この日本の良さをよい方向に是非とも生かしていきましょう!

現在のティルソン・トーマスの演奏との比較

今回初めて、あるいは久しぶりにティルソン・トーマスを聴いたという方は、当然現在の彼は普段どんな感じで演奏しているのか?今回のようなのか?と疑問をお持ちだと思いますので、それに触れたいと思います。

まずサンフランシスコ交響楽団

サンフランシスコ交響楽団は、とにかくsuper controlled、大きな音とは無縁。そしてこのオーケストラはサンフランシスコの総力を結集したものなので、ティルソン・トーマスの力だけではなく、コンサートマスターのアレクサンダー・バランチック(私はMTTとバランチックを運命共同体コンビと呼んでいる)の貢献も非常に大だし、オーケストラ・メンバー、ボードや管理部門、何よりも観客のパワーの総体なのです。さらに14年の歳月の重みは掛替えがない。

だから受ける印象は(ティルソン・トーマスがマーラーで実現しようとしているものは同じだけれど)、かなり違うと思います。私は今回PMFオーケストラを聴いて、サンフランシスコ交響楽団とはまた違う、可塑性に富んだ若者たちの素晴らしさがあると感じました。

ニューワールド・シンフォニー

ニューワールド・シンフォニーも200%MTT色です。サンフランシスコ交響楽団からバランチックをとって、若者らしいストレートなエネルギーを足した感じ。個々の奏者の演奏能力は非常にレベルが高いです。

PMF2009を終えて

今回のPMFオーケストラ公演を通じて、現在のティルソン・トーマスの音楽づくりへの姿勢は、日本の聴衆に十分伝わったのではないかと思います。

他方で、MTTが今世界のクラシック音楽シーンで果たしている役割への理解という観点に立つと、今後の報道にもかかっていますが、全くもって不十分と言わざるをえない。

私の席の後ろにいたかなりクラシック音楽好きらしいおじさんたちからも「男前なんだよね、もう結構歳いってるはずだけど」みたいな話題が聞えてきたし、友人は席の近くのおばさまが、「今日の指揮者、なんとかトーマスって人みたい」という話をしているのを聞き、その場に私がいなくて助かった~と言っていました。やっぱりこれが日本における一般的なMTTへの認識レベルなのです。

私は当初、ティルソン・トーマスのポスト歴や作曲もするという点しか紹介されない状態(結局コンサート当日配布されたプログラムもそこに終始していました)を見ても、札幌には札幌の事情とかやり方があるのだろうなあと思っていました。しかし、私のサイトを見てメールをくれた札幌の方とのやりとりを通し、多くの札幌の人たちは、現在のMTTがどうなっていて、彼がPMFに参加するということが海外ではどう受けとられるか、彼が参加することの意義は何かといったことへの認識がないのでは?と感じたこと、途中見たときにエッシェンバッハやシャン・ジャンは早々にチケットが完売していたのにMTTだけ残っていたこと、昨年のサロネン&ロス・フィルに客が入らなかった教訓もあり、「放置しておくのは危険」とMTTが参加することの意義をアピールするべく行動に出ました。

ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

まだやれることはないか?と自問する日々でしたが、できる限りのことはしたかなと思っています。

MTTは日本で気分よくお仕事できたみたいなので、それは何よりですが、彼の来日を日本にとってプラスになるようつなげるという点では、もっと効果を上げる方法があったのではと思っています。次回の課題です。

日本にPMFがあることは素晴らしいことだと思います。PMFの益々の発展、アカデミー生の今後の活躍、そしてPMFのティルソン・トーマスとの縁がこれからも大切にされることを願っています。

(2009.7.30)

Tag: MTT

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