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ティルソン・トーマスの山アリ谷アリ

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ティルソン・トーマスの山アリ谷アリ

ティルソン・トーマスが、サンフランシスコに行き着くまでの人生いろいろについては、ニューヨーク・タイムズの過去記事
An Older, Wiser, Humbler Wunderkind
By DAVID SCHIFF;
Published: August 20, 1995
で詳しく紹介されています。

タイトル「歳を取って、賢くなって、謙虚になった鬼才」がそのものズバリで笑える。

20代で若くしてスターダムに躍り出たティルソン・トーマス。しかしながら本人のキャラクターをはじめとする諸事情により、スターダムからはあっけなく退場。

普通ならそこで終わって当然な状況で、ここまでやって来れたのは、天才ゆえか?努力なのか?

おそらく両方なのでしょう。

私は長年MTTに対してノーマークだったので、興味を持った初期の頃に感じた疑問は、

「どうしてボストン響とのデビュー盤があんなに素晴らしいのにその後がないのか?」

というものでした。このニューヨーク・タイムズの記事は、ティルソン・トーマスのデビューからのあらましや長所・短所の分析、キャラの指摘などが遠慮なく的確で、やはり若い頃から見続けている方は違うと感心するし、非常に納得がいく指摘です。

そして私のようにニュートラルな状態で音楽から興味を持った者とは違い、アメリカの評論家にはやはりバーンスタインの存在というのがいかに鮮烈だったかということや、どうしてもその視点でティルソン・トーマスを見てしまうということもよくわかります。

そういう点では、ティルソン・トーマスがバーンスタインの影から独立して歩けるようになったのも、独立して見てもらえるようになったのも、ここ10年くらいのことなのかもしれません。

アメリカンへの思い

この記事では、ティルソン・トーマスがサンフランシスコ交響楽団で成功できるかは、ティルソン・トーマス個人の問題だけではなく、今後のアメリカ人指揮者やアメリカ人作曲家の作品の演奏機会の命運がかかっているのだと問題提起しているのですが、その中でティルソン・トーマスがアメリカンについて語っている部分があります。内容は、

かつてはアメリカのオーケストラにとって、ヨーロッパの一流の楽団に肩を並べられることが重要だったが、今は既にそうした楽団があるのだから、そこで何ができるかが問題だということと、どこも均質的なインターナショナル・スタイルばかりになる前に、アメリカの音楽文化の核心というものをはっきりさせるときにきているというもの。

この点からすると、まさに私のように「アメリカンである点が素晴らしい」と言い出す者が出てくることは、MTTの目論見どおり、まんまと網にかかったようでちょっと悔しいですが、何も知らずに音楽を聴いてそう思ったので仕方ありません。

記事から13年を経て

この記事は、これから始まるティルソン・トーマスのサンフランシスコ交響楽団での成否はいかに?という段階で書かれたものです。

それから13年経った今、彼がそれまでの人生の集大成をかけた成果は、めざましいものがあったと思います。

そしてかつてMTTが失敗した通り、アメリカ社会は尊敬に足る人物であるということが大きくものを言う社会であることから、ティルソン・トーマスの教育者としての実績が、彼をアメリカのクラシック音楽界でスペシャルな存在にしているのだと思います。

もっとも国民的人気ということを考えると、MTTは音楽もパーソナリティも知的であるという点が前面に出るので、それが受ける層とそうでない層に分かれるという問題はずっと残るのではないかと思いますが、もう昔のように皆が同じアーティストに熱狂する時代ではないことを考えると、それもまた今の時代らしいのかもしれません。

ご参考までに:かつてのMTTといえばこちら、「傲慢」。
おまけ:MTTの若い頃の記事
よい子はまねをしてはいけません。もっともその気質があったからこそ、サンフランシスコ交響楽団が成功できたとも言えます。

人間MTTについて思うこと

結局、MTTも様々な壁にぶちあたりながら日々成長してきたということなのでしょう。

今でも非常にピリピリしているように感じられる日だってあるし、出を間違えたオーケストラ・メンバーに、つい「ちっがう!!」という顔しちゃったりするのを見ると、「人間なんだ」と思います。

サンフランシスコ交響楽団は、本当によくやっていると私は思います。MTTは、普通なら「こんなのつきあいきれない」と言われて当然だと思うし、いくら心を一つにしていると言っても、あの一つになっている音楽にはずれてはならないと、オーケストラ・メンバーにかかるプレッシャーは並大抵ではないのではないでしょうか。しかもMTTはいっぱいフェイントみたいなことを仕掛けてくるから、全く気を抜けない。皆必死で指揮者を見るしかない。

絶対なだめ役の方のご尽力があるに違いありません。

それでも、そんな苦労を上回るものを今のMTTは提供できるということなのだと思います。

それにしてもニューヨーク・タイムズのアーカイブは便利です。私が最初にティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団に興味を持った頃は有料でしたが、その後無料で読めるようになりました。

ニューヨーク・タイムズほど過去にさかのぼっていろいろ読めるメディアは少ないのではないでしょうか。しかも結構ティルソン・トーマスを取り上げています。ジャーナリストがアーティストをよく見ていて洞察が深い。

サンフランシスコ・クロニカルも取り上げていますが、こちらはMTTに対して絶賛調なので、東海岸メディアから見た指摘の方が参考になるように思います。

Tag: MTT

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