ストラヴィンスキー:春の祭典/火の鳥/ペルセフォーヌ
マイケル・ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団
ストラヴィンスキー:春の祭典/火の鳥/ペルセフォーヌ
ここでは、特に「春の祭典」にフォーカスしています。
ティルソン・トーマスの「春の祭典」の録音を徹底比較
「春の祭典」抜きでティルソン・トーマス(MTT)を語れないくらい、彼にとっては重要なレパートリーなのではないかと思います。
どの盤も基本路線は同じですが、やはりサンフランシスコ盤のつくり込みはすごい。
ティルソン・トーマスはずっと長い間、こういうことをやりたかったのだろうと思わずにいられない、積年の思いを発露したかのような徹底した演奏。
この勢いが、あのマーラーに続いていくかと思うと、その執念にもはや言葉なし。
1972年(28歳)ボストン盤
このとき、既にティルソン・トーマスのハルサイになっています。全体的な曲の構想は、この時点でもう固まっていてその後も迷いがありません。
ボストン響は、ところどころ音色の深みや表現力の豊かさなどでうまいと感じさせるものの、いけにえの踊りのリズムなどで突き詰め感が足りない(サンフランシスコ盤との比較で)。
このCD、デュトワ指揮のペトルーシュカとカップリングされていますが、一度も聴いていない(ゴメン)。
1998年(54歳)サンフランシスコ盤
CDジャケットの表は、いつものようにMTTですが、裏や中がとってもアーティスティックでおしゃれです。
演奏の方は、よけいなものが削ぎ落とされて、非常に研ぎ澄まされた印象です。テンポもリズムも表現も、あるべき姿へと収束していった感じで、説得力があります。
オーケストラは、ボストン響に比べると、やはり音が明るく、軽め。アンサンブルの緻密さを感じます。
第二部のリズムの組み合わせで展開していく連続が、狙ったところにズバッとはまって、もうこれはMTT&SFSにしかできない精度だと思います。
土着的な泥くささとは対極のような演奏ですが、リズムが繰り返されたりしていく中で、トランス状態になって、一線を越えて崩壊する、みたいな瀬戸際すれすれのキワドサがよく出ていると思います。
録音もプロデューサーがマーラーシリーズと同じ人なので、打楽器の擦ったような音をはじめとして、音の瞬発力の表現が見事(このアルバム、グラミー賞でアルバムとオーケストラの他にエンジニアも受賞してトリプル受賞だった)。
私はこのMTT&SFS盤の演奏が大好きです。
が、しかし、第一部の最初にリズムが「ダ、ダ、ダ、ダ」と出てくる前、弦の持続音のところでの効かせる音の選択と、第二部の最後から2番目の音、弦の上行音型(装飾音?)から最後の音へのもって行き方の二つは、サロネン&ロサンゼルス・フィルハーモニック盤の方が好きです。
この二ヶ所はすごいと思う。これだけで、サロネン天才だよと叫んじゃうくらい。
2006年(62歳) KEEPING SCORE での演奏
さて、話をMTTに戻して、こちらのKEEPING SCOREでの演奏は、サンフランシスコ盤のCDと基本的に同じ路線ですが、楽譜が1913年版。
音声が5.1サラウンドなのですが、細かい打楽器の音などはCDの方がずっと楽しめます。
しかし、曲の素晴らしさを伝えるという点において、彼らの活動の集大成だと思うので、ぜひ多くの方に見ていただきたい。
クラシック音楽の裾野を広げるとか、音楽の魅力を伝えるとはどういうことなのかについて、一石を投じていると思います。