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サンフランシスコ交響楽団の楽団員がストライキに突入で考えたこと

サンフランシスコ交響楽団の楽団員がストライキに突入で考えたこと

3月13日(現地時間)サンフランシスコ交響楽団の楽団員はストライキに入ることを発表、14日のコンサートはキャンセルされました。

今のところ、ミュージシャンと経営側双方の主張は平行線のもよう。私は「ああ、成功した組織というのは、こうやって自らの手で崩壊していくのかもしれない」と感じております。

今回の騒動のポイントは、集めたお金をどう配分するのがベストか、経営判断の問題であるということ。そして何が難しいかといえば、「参照できる正解がない」という点。この20-30年の間、サンフランシスコ交響楽団はアメリカのトップ・オーケストラの一つになるべく励んできました。そこには常に「追いつき、追い越せ」の対象となるモデルがいました。既にトップの一つとなった現在、「追いつき、追い越せ」メンタリティではない、自らが未開の地を切り拓いてモデルになることが求められる立場にあるのです。判断の難易度がぐんと上がっている。

さらに話をややこしくしているのが、芸術団体は寄付を集めることができても、オペレーティング・ベースでは赤字であるという構造的な問題。サンフランシスコ交響楽団も直近3期は毎期オペレーティング・ベースでは赤字を計上してきました。ここにマネジメント側が「ひきしめていきたい」と考える根拠があるのです。これに対してミュージシャン側は「(100周年で集めた125百万ドルをはじめ)シンフォニーはファンドレイジングに成功しているのに、財政事情を理由にするのは納得いかない。集めたお金をどう配分しているのか帳簿を見せてほしい」と反応しているのです(楽団は非営利団体として法定されている開示は行っており、ミュージシャンとの交渉の過程でも既に500頁に及ぶ財務資料を提出しているけれども、納得を得られていない状況)。

さらにもう一つ、ここにはアメリカン・オーケストラの図体があまりにも大きくなってしまっているという問題が立ちはだかっています。教育プログラムをはじめ、オーケストラの事業の範囲が拡大し、音楽を生み出す側だけではなく、アート・マネジメントにも優秀な人材を集めなければ経営できない。今回はエグゼクティブ・ディレクターの報酬がやり玉に挙がっていますが、彼だけではなく、財務にもファンドレイジングにもマーケティングにもコストがかかる体質になっている。

結局、コンサートなどのプロダクションの費用は上昇、マネジメントのコストも上昇、音楽監督の報酬も上昇という中で、全てのコストが上昇するのに任せていれば、経営が早晩行き詰まるのは目に見えており、どこかを削らなければならない。

そんな中で出された「初年度据え置き、2年目と3年目は年1%増」という昇給条件が、ミュージシャンに「音楽を生み出している当のミュージシャンを尊重していない」(=他を削るべき)と判断されたのです。

ミュージシャン側が強調するのは、サンフランシスコの生活コストの高さや物価の上昇などを勘案すると、これでは実質マイナスであるということ。そしてLAフィルやシカゴ響並みの水準にすべきという点。前者については、ベイエリアに住んでいる人は皆生活コストの高さを実感しており、地元の人々の理解を得られているもよう。後者については、そもそもどういう待遇がトップ・オーケストラの奏者にふさわしいのか、LAやシカゴを基準にすることは適正かという問題、ベース・サラリーだけではなく、その他の福利厚生条件や過去の上昇率なども含め総合的に判断しないと何とも言えないと私は思います。

経営側の立場になれば、集めたお金はオペレーティング・ベースで使ってしまうのではなく、できるだけ将来への投資に使いたいと考えるのは当然。結局バランスと公正さの問題に行きつくのでしょうが、難しい。

100周年で派手にお金を集めなければ、ここまで話がこじれることはなかったであろうと思うと皮肉でもあります。

今回の紛争で、組織が成功し続けることがいかに困難な道であるかをあらためて思い知らされましたが、ミュージシャンが納得し、かつ将来に禍根を残さないかたちで早期に労使交渉が決着することを祈っております。

交渉の細かいことなど詳しくは
サンフランシスコ・クラシカル・ボイスの記事

楽団員が開設したウェブサイト

(2013.3.14)

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