サンフランシスコ交響楽団の東京公演2日目&総括
サンフランシスコ交響楽団の東京公演2日目&総括
マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団の東京公演、東京文化会館(都民劇場)での2日目も彼ららしい演奏となり、無事アジアツアーは幕となりました。
気づいた点、考えたことを記します。
- MTTの右肩
1曲目の「ショート・ライド」最後のクレッシェンドが印象的で非常にキマってスタートしたコンサート。ユジャも(毎回)期待に応える演奏で順調に進み、ラフマニノフ3楽章の美しさに浸っていたところ、4楽章が始まってふと見ると、トーマスが左手のみで指揮している。右肩がもう無理なのかなと思うとそれ以降、「最後までがんばれ」とハラハラしながらひたすら祈っておりました。
過去、MTTが派手に動いていたら譜面台に手をぶつけ、爪が割れて血が出たか何かでしばらく左手だけで指揮したのを見たことはありますが、まるまる一つの楽章をほぼ左手だけで指揮しているのを見るのは、他の指揮者も含めて初めてでした。左手だけだったことによって音楽のクオリティが下がることは特になかったと思います(4楽章のコーダが、今回他の都市で演奏したときより遅めのテンポだったのは体調のせいかなと思いましたが)。MTTは腕がすらっと長く、それで得をしている部分がかなりある指揮者だと思いますが、左手だけでもずいぶんいろんなことができるんだなと見ていて感心しました。
曲が終わって舞台から引っ込むとき、左腕だけ振って右腕はまったく動かない状態で歩いていたので、かなり怪しい感じに見えましたが、終演後のMTTは右腕が動かなくてダウンみたいなことにはなっていないので皆さまご安心を。以前インタビューで答えていたのを読んだ記憶によると、彼は若い頃から度々肩を故障し、ロサンゼルス・ドジャースのピッチャーの肩を診ているドクターにかかったりしていたそう。だからそうした肩を抱えながら指揮者生活を送ってきたので、今回東京で初めてこうなった訳ではないのです。
- 都民劇場
文化会館での公演は都民劇場の一環でした。チケットは完売したと聞いていましたが、会員の方が公演にちゃんと足を運んでくれるのか、それだけが心配でした。結果は皆さん来場してくださり、満席になりました。2日とも公演が満席になって本当に良かった。
都民劇場って、若い世代の会員を増やす活動を特にしていなさそう(に見える)で独特な雰囲気です。自然消滅で構わないと思っているとか?
- ロデオが聴けて良かった
今日のアンコールはコープランドの『ロデオ』でした(アンコールの1曲目はアルルの女のファランドール。開演前にピッコロのキャシー・ペインがずっと練習していたのでネタバレになっていましたが。彼女は日頃から開演前に細かいパッセージを一音一音確認しながらさらう人なのです。この曲はツアー共通のアンコール曲でした)。
ロデオの演奏はMTT/SFSコンビらしさにあふれたもので、最後がこの曲で非常に盛り上ってコンサートはお開き。
何で東京公演が大成功したか考えてみた
サンフランシスコ交響楽団の東京公演は2日ともホールが満席になり、演奏も聴衆の期待を超え大成功を収めました。なぜこういう結果になったのか考えてみると、
- SFSメディアの商品クオリティとブランディング
SFSメディアの効果が大きかったことがまず挙げられます。特にサントリーホールでの公演は、CDを聴いて共感した人々が集結していたと思います。彼らの音楽づくりへの理解や共感という、いわば土壌がつくられた状態になっていたこと。これはSFSメディアの超ハイクオリティな製品づくりとキーピング・スコアを含めた商品ラインナップの成果でしょう。
- 聴衆のエネルギー
オーケストラがよく見える位置で聴いた方の観察によると、開演前オーケストラの皆さんは疲れている様子だった由。それがコンサート前半が終わるときの拍手の音に接して、ガラッと姿勢まで変わったそう。MTTにしても、今思い返してみると、ツアーを通して身体のキレがイマイチで本調子の状態ではなかったのだろうと思います(キレは単に加齢によるものかもしれませんが)。
そんな中であのマーラー演奏が出たのは、私はひとえに聴衆の力によると思います。「ぜひ東京で良い演奏を!」という皆の思いが自然に合わさってホールも満席になったし、素晴らしい演奏も出た。大げさかもしれませんが、運命が変わったのではないでしょうか。こんなことって本当に起きるんだと、私は何だか不思議な気分です。
コンサートは聴衆が重要だとこれまでも理解しているつもりでいましたが、今回ほど聴衆の力を実感したことはありません。
東京での体験は、サンフランシスコ交響楽団にとっても特別なものになったとのこと。今回の成功が次につながっていくことを祈ります。
2012年11月20日 東京文化会館
【プログラム】
ジョン・アダムズ:ショート・ライド・イン・ア・ファスト・マシーン
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番(ピアノ:ユジャ・ワン)
ラフマニノフ:交響曲第2番
マイケル・ティルソン・トーマス(MTT)指揮
サンフランシスコ交響楽団
(2012.11.21)