アメリカン・マヴェリックス・フェスティバルが大成功で終了
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アメリカン・マヴェリックス・フェスティバルが大成功で終了
サンフランシスコ交響楽団の創立100周年記念事業の一つである、アメリカン・マヴェリックス・フェスティバルが大きな成功を収めて終了しました(3月8~30日)。
私はニューヨークでのフェスティバルに行きました。フェスティバルを体験した報告は他の場ですることになっているため、詳しくは書けないのですが、まさに100周年にふさわしい取り組みと成果でした。ポイントを記すと、
- フェスティバルで取り上げたアメリカ作品の選択と配列、聴かせ方の工夫
- 若い人に聴いてもらうことに注力
- 今生きている作曲家との交流の場
- いろんなイベントと組み合わせて多様な切り口でアメリカ作品を紹介する
昨年秋にサンフランシスコ交響楽団の人と話したとき、マヴェリックスでツアーをすることは、彼らにとって非常に大きなチャレンジだと言っていました。サンフランシスコ以外の場所で、マヴェリックス作品のコンサートに果してお客さんが来るのか??フェスティバルは最終的に集客もうまく行きました。レビューを見ても、マヴェリックスで集客できたこと、プログラミング、大胆なチャレンジ、演奏の精度に触れているものが多かったです。
ネットで話題になったMTTがスムージーを作ったことについて
ジョン・ケージのソング・ブックでは、個性の全く異なる3人の女性歌手に加え、ティルソン・トーマスと8人のサンフランシスコ交響楽団のメンバーがパフォーマーで参加しました。
曲の中で、ティルソン・トーマスがスムージーを作ったことについて反響があり、ネットでも話題に。プロダクション自体がアイディア満載だったのですが、その中でもMTTのパフォーマンスは目立っていました。どんなことをやっていたかご紹介します。
まず、曲のはじめは、MTTが舞台中央の椅子に座っていて、考え事をしている。何か思いつくとポストイットにメモし、それを身体に貼って行くというもの。ポストイットだらけの人になっていました(今思い返すに、このフェスティバルではそれぞれの作曲家の“思考”に着目するという意味だったのかも)。次にやっていたのは、舞台奥のテーブルで、音をつくること。貝殻でできたネックレスのようなものをこすり合わせて音にしていました。
注目を集めたスムージーは芸が細かかった。まず、きゅうり(太い)の皮をピーラーでむくところから始まる。次は、材料を切る。まな板に包丁があたる音も音楽にしていました。材料は、スパンとした音が出るものを選択。きゅうりの他は、人参、セロリなど。そして材料をブレンダーに入れて「ガーッ」という音を音楽にする。何を作っているか目で見てわかるように、ブレンダーにはあらかじめ人参ジュース色の液体が入っていました。このブレンダー、ティルソン・トーマスがサンフランシスコの自宅でいつも使っているものを持参。クイジナート製。このブレンダーにはパルス機能がついていて、ボタンを押している間だけ攪拌されるという点がポイント(だから家から持って来た)。MTTは「ガーッ」の長さに変化をつけて音楽を作ったのです。さらに、隣でジェシー・ノーマンがタイプライターを打っていたのですが、その音とリズムの組み合わせに凝っていました。で、MTTは出来上がったスムージーを飲む。味に納得できない風情で、今度はバナナをちぎって入れる。また「ガーッ」の音楽が形成され、今度も出来上がったスムージーを飲む。きゅうりにバナナを組み合わせたら、絶対マズイと思うのだけれど、飲む。驚異の芸人根性なのだ。ちなみにスムージーの材料は、ニューヨークに着いてから、サンフランシスコ交響楽団のスタッフがマーケットに買いに走ったとの由。
他は手をたたいて音楽をつくるというのもやっていました。これも単に手をたたくだけではなく、昔のロバート・ウィルソン演出のオペラみたいに、カクッ、カクッとした身体の動きが加わる。また、金属のバチみたいなものでピアノの弦をはじいていましたが、ものすごくセンスが良かったです。
プロダクションはティルソン・トーマスだけでなく、舞台にのった全員がこのレベルの相違工夫を発揮し、歌手陣のクリエイティビティ、映像も加わって、非常に完成度の高い音楽でした。
レビュー
- New York Magazine
Justin Davidson氏 "You want to rouse an audience with orchestral music? This is how it's done." (“オーケストラ音楽に聴衆を惹きつけたい?ここに答えがある” ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団が泣いて喜ぶようなレビュー) - New Yorker
- New York Arts
- New York Times その1
- New York Times その2
- Seen and Heard International
- 音楽業界の方のブログ(ちゃんと見ている)
ニューヨークでのプログラム
3月27日
Michael Tilson Thomas, conductor
Joan La Barbara, vocalist
Meredith Monk, vocalist
Jessye Norman, soprano
St. Lawrence String Quartet
San Francisco Symphony
Yuval Sharon, stage director
Cage:Selections from Song Books
Cowell: Synchrony
John Adams: Absolute Jest (San Francisco Symphony & Carnegie Hall co-commission; New York premiere)
Varèse: Amériques
3月28日
Michael Tilson Thomas, conductor
Emanuel Ax, piano
San Francisco Symphony
Ruggles: Sun-treader
Feldman:Piano and Orchestra
Ives (orch. Brant):A Concord Symphony
3月29日
Michael Tilson Thomas, conductor and host
Kiera Duffy, soprano
Paul Jacobs, organ
Mason Bates, electronica
Newband ( Dean Drummond and Stefani Starin, directors)
Young People’s Chorus of New York City (J. Núñez, Artistic Director)
Members of the San Francisco Symphony
Partch: Daphne of the Dunes
Mason Bates: Mass Transmission (New York premiere; San Francisco Symphony commission)
David Del Tredici: Syzygy
Harrison: Concerto for Organ and Percussion Orchestra
3月30日
Jeffrey Milarsky, conductor
Joan La Barbara, vocalist
Meredith Monk & Vocal Ensemble
Jeremy Denk, piano
Members of the San Francisco Symphony
Steve Reich: Music for Pieces of Wood
Meredith Monk:Realm Variations (New York premiere; San Francisco Symphony commission)
Foss: Echoi
Morton Subotnick: Jacob’s Room: Monodrama (2012) (New York premiere; San Francisco Symphony commission)
フェスティバルについての過去記事
(2012.4.11)